介護報酬の加算・減算
訪問介護事業所の経営において、加算・減算の正しい理解と対策は「収益を守る」ための生命線です。
しかし、制度改正のたびに情報は複雑化し、忙しい経営者の方ほど「本当は知りたいのに、つい後回し」になりがちではないでしょうか。実は、知らないだけで取得できていない加算があったり、気づかないうちに減算リスクを抱えていたりするケースは少なくありません。
この記事では、2024年度に改定された最新情報に完全対応し、訪問介護の加算・減算を網羅的かつわかりやすく整理しています。
ぜひ最後までご覧いただき、事業所の収益や経営課題の改善にお役立てください。
※訪問介護以外の加算・減算の情報をサービス種別ごとにまとめた情報は以下よりご覧いただけます
介護事業所における加算および減算とは、「あらかじめ定められた要件」に応じて、基本の単位数にプラス(加算)もしくはマイナス(減算)して算定をおこなうことを意味します。
そのため、収益を最大化するために加算を得たり、意図せず減算が適用されないためには「あらかじめ定められた要件」をしっかり理解しておく必要があります。
介護事業所における加算は、単なるボーナスではありません。厚生労働省が加算を設けている背景には、次のような目的があります。
つまり、加算は「制度的に優先したい取り組み」を事業所に促すための仕組みであり、経営者が加算を意識することは、社会的責任を果たすことにもつながります。
加算を取得できれば、単位数が増えるため収益が直接向上します。たとえば、特定事業所加算(Ⅰ)を取得すれば、月額あたり数万円~数十万円単位で収益が変わることも珍しくありません。
また、加算取得実績は、求人での「働きやすさ」アピールやケアマネジャーへの「信頼性」アピールにもつながり、競合との差別化にも寄与するでしょう。
一方で、加算を取りこぼしている=収益機会をみすみす逃していることになります。本来なら得られるはずの収益を失い、事業の持続可能性に悪影響を及ぼすリスクもあるかもしれません。
要件を満たしているのに申請・算定していないケースは非常にもったいないため、「知らなかった」「うっかり忘れていた」で後悔しないよう、情報は確実にチェックしましょう。
特に訪問介護においては、令和6年の介護報酬改定で基本報酬がマイナスとなってしまい、加算を積極的に取得しないと収益が悪化してしまう深刻な状況になっています。
参考:『【介護報酬改定2024最新】分かりやすく要点のまとめ』(介護のコミミ)
それでは早速、訪問介護事業所が算定できる加算を紹介したいと思います。
加算の情報は、主に三年に一度行われる介護報酬改定などで更新されることが多いですが、2025年4月時点では以下の加算を訪問介護事業所は算定することができます。※加算名をクリックすると各加算を詳細に解説したページをご覧いただけます
加算名 | 概要 | 加算率(もしくは加算単位) |
---|---|---|
生活援助加算 | 身体介護を行なった後に行なった生活援助 | 25分ごとに65単位 |
2人の訪問介護員等による場合 | 利用者の状況により、2人の訪問介護員によるサービス提供 | 所定単位数の200% |
夜間もしくは早朝の場合または深夜の場合 | 夜間、早朝、深夜のサービス提供 | 夜間・早朝は基本単位数の25%、深夜は50% |
緊急時訪問介護加算 | 利用者または家族からの要請に基づいて、計画外に緊急で対応した訪問介護 | 1回につき100単位 |
初回加算 | 新規利用者の初回訪問時に算定 | 1月につき200単位 |
特別地域訪問介護加算 | 交通不便な地域等 | 所定単位数の15% |
中山間地域等における小規模事業所加算 | 中山間地域等の小規模事業所 | 所定単位数の10% |
中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算 | 中山間地域等に居住する利用者へサービス提供 | 所定単位数の5% |
特定事業所加算 | 質の高いサービス提供体制を整備している事業所を評価 | 所定単位数の最大20% |
生活機能向上連携加算 | 外部医療専門職と連携し、利用者の生活機能向上を目的とした計画を作成・実施した場合に算定 | 1月につき最大200単位 |
口腔連携強化加算 | 歯科医療機関と連携した利用者の口腔ケアに関する情報共有や支援 | 1回につき50単位 |
認知症専門ケア加算 | 認知症高齢者に対する、認知症介護の専門知識をもつ職員がケア | 1日につき最大4単位 |
介護職員等処遇改善加算 | 介護職員の処遇改善を目的としたもの | 所定単位数の最大24.5% |
さらに以下では、それぞれの加算について詳細を見ていきましょう。
身体介護に引き続き生活援助を行った場合に得られる加算です。具体的には、20分以上の身体介護に引き続き生活援助をおこなった場合、所要時間が20分から起算して25分を増すごとに65単位を加算することが可能です。(算定は195単位が上限)
以下を背景とした、1人の利用者に対して2人の訪問介護員等がサービス提供をおこなった場合、基本単位数を2倍した単位数で算定することができます。
ただし、上記の背景を満たしていたとしても、同時に3人以上の訪問介護員等がサービス提供をおこなった場合は加算の算定はできません。あくまでも訪問介護員等が2人の場合のみ算定が可能となっています。
夜間・早朝・深夜にサービス提供をおこなった場合に、サービス提供1回ごとの基本単位数に算定される加算です。(夜間・早朝・深夜の定義および加算率については以下の通り)
区分 | 定義 | 加算率 |
---|---|---|
早朝 | 午前6時~午前8時 | 基本単位数+25% |
夜間 | 午後6時~午後10時 | 基本単位数+25% |
深夜 | 午後10時~午前6時 | 基本単位数+50% |
特定事業所加算は、要介護度が高い利用者への質の高い支援を実現するため、専門性の高いスタッフを配置する事業所に対して支給される加算です。加算区分が複数ありますが、最も上位の特定事業所加算(Ⅰ)の加算率は20%と、全加算の中でも最大級のインパクトです。区分ごとの詳細な算定要件や取得メリットについては、以下の記事で解説しているのでぜひ参考にしてください。
また、訪問介護の特定事業所加算についてはYouTubeでもわかりやすく解説しているので、ぜひ動画も併せてご覧ください。(以下をクリック・タップすると動画を再生することができます)
介護人材の確保が著しく困難な地域においてサービス提供を行う事業所が対象となる加算です。
厚生労働大臣が指定する中山間地域に所在し、基準を満たす小規模事業所がサービスを提供する場合に算定できる加算です。サービス提供1回あたり、基本単位数の10%が上乗せされます。
指定地域に居住する利用者に対して、通常の実施地域を越えてサービスを提供した場合に算定できる加算です。1回ごとのサービスにつき、基本単位数の5%が加算されます。
あらかじめサービス計画に組み込まれていない日時に、利用者や家族からの要請を受け、24時間以内に身体介護を提供した場合に適用できる加算です。1回あたり100単位が加算されます。
新たに訪問介護計画を作成する利用者に対して、初回時にのみ算定できる加算です。これから開業する新設事業所は特に押さえておきたい加算です。
訪問介護事業所が外部の医師やリハビリ専門職(理学療法士など)と連携し、アセスメントと介護計画の作成を行った場合に算定できる加算です。専門的視点を取り入れた計画に基づく支援を通じて、利用者の自立支援や重度化防止を目指します。
訪問介護事業所と歯科医療機関が連携し、利用者に対して適切な口腔ケアを実施した場合に算定できる加算です。要件を満たせば、利用者1人あたり月1回50単位を加算できます。
認知症ケアに特化した専門研修を修了した職員が介護サービスを提供した際に算定できる加算です。認知症対応力の向上を目指す事業所にとって重要な加算となります。
介護職員の賃金水準向上を目的とした加算であり、2024年度から従来の複数の加算が一本化され、再編されたものです。処遇改善に取り組む事業所にとっては、必ず押さえておきたい加算のひとつです。
介護職員等処遇改善加算にも複数の加算区分があり、上位のものになるほど算定ハードルが上がりますが、2025年時点で要件を満たしていなくとも、翌年までに満たすことを宣誓するだけで算定できる経過措置や、算定要件を満たすための補助金も出ているため、随時情報をチェックしながらより上位の加算区分の算定を目指したい加算です。
2025年最新の介護職員等処遇改善加算に関する情報はYouTubeでもわかりやすく解説しているので、ぜひ動画も併せてご覧ください。(以下をクリック・タップすると動画を再生することができます)
続いては、訪問介護事業所が対象となりうる減算についても紹介します。あらかじめ、どんな減算があるのかを知っておくことで、意図せず減算の対象となってしまうことを回避することができます
高齢者虐待防止措置未実施減算は、利用者に対する虐待を未然に防ぐための取り組みが適切に行われていない場合に適用される減算で、令和6年度の介護報酬改定より設けられました。
以下のような対策が講じられていない場合、所定単位数の1%が減算されます。
業務継続計画未策定減算は、感染症や自然災害など緊急事態に備えた業務継続計画(BCP)が策定されていない場合に適用されます。
業務継続計画(BCP)とは、感染症や災害が発生した際にもご利用者への最低限のサービス提供を維持し、早期に業務を再開するための対応策をまとめた計画書のことで、令和6年より介護事業所でもBCP策定が義務付けられるようになり、基準を満たしていないことが発覚した場合に、1%の減算が適用されることとなりました。
介護のBCPについてはYouTube動画でもわかりやすく解説していますので、ぜひ動画も併せてご覧ください。(以下をクリック・タップすると動画を再生することができます)
障害福祉サービスの指定を受けた事業所が介護保険サービスを提供する際、介護保険の指定は受けているものの基準を満たしていない場合、共生型訪問介護に関する減算が適用されます。
減算区分と率は以下の通りです。
区分 | 減算率 |
---|---|
指定居宅介護事業所で障害者居宅介護従業者基礎研修課程修了者等により提供する場合 | 所定単位数の30% |
指定居宅介護事業所で重度訪問介護従業者養成研修修了者により提供する場合 | 所定単位数の7% |
指定重度訪問介護事業所によるサービス提供の場合 | 所定単位数の7% |
介護保険給付の公平性を維持するため、事業所と同じ建物内に居住する利用者、またはその他同一建物内に20人以上の利用者が居住している場合にサービスを提供すると、減算の対象となることがあります。
いかがだったでしょうか。
繰り返しではありますが、令和6年度介護報酬改定でのマイナス改定を受けて、訪問介護では減収が相次ぐという厳しい状況が続いているだけに、加算・減算の情報はしっかり押さえていただいた上で、取得できる加算があれば収益改善のチャンスにしていただきたいという気持ちで執筆させていただきました。
皆さんのお役に立てれば幸いです。
介護のコミミとは、介護や障がい福祉の事業所における課題解決のパートナーになるべく立ち上がった業務改善プラットフォームです。
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