【2026年義務化】介護現場のカスハラ対策|運営規程・予防策・対応マニュアル

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【2026年義務化】介護現場のカスハラ対策|運営規程・予防策・対応マニュアル

介護現場で深刻化するカスタマーハラスメント(カスハラ)。2026年10月には全業種でカスハラ防止が義務化され、介護事業所は労働法上の雇用管理上措置に加え、介護報酬・運営基準上の整備も段階的に求められています。職員の疲弊と離職は事業所の存続に関わる重大な経営課題です。「正当なクレーム」と「不当な要求」の線引きはどこにあるのか? 職員を守り、法的リスクを回避するために、経営者として今すぐ取り組むべき対策とは?

本記事では、2026年義務化のスケジュールから運営規程・電子掲示の整備、現場での予防策・対応マニュアルまでを網羅した「カスハラ対策の全て」を、介護事業所の経営者・管理者向けに徹底解説します。

この記事の筆者

  • 伊藤証

    伊藤証

    株式会社Giver Link 取締役 / スマート介護士Expert・宮城県公認介護テクノロジー導入活用アドバイザー

    「介護のコミミ」を運営する株式会社Giver Linkの取締役CTO。介護のコミミのコラム記事の執筆のみならず、YouTubeチャンネルにて100本以上の動画を通じての情報発信や、全国で行われる講演会などで講師も務める。

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今回の内容

2026年から求められる介護事業所のカスハラ対策(義務化スケジュール)

  1. 2026年度までに整備すべき5つの必須対応

なぜ今、介護事業所の経営者がカスハラ対策に本気で取り組むべきなのか?

  1. 職員の離職は経営の危機に直結する
  2. 放置は違法?問われる事業所の「安全配慮義務」と2026年カスハラ防止義務

その言動、どこからがカスハラ?定義と具体的事例

  1. 「正当なクレーム」と「介護現場におけるハラスメント」の明確な境界線
  2. 【事例で学ぶ】介護現場で頻発する3大カスハラ類型

運営規程・重要事項・電子掲示に盛り込むカスハラ条項

明日からできるカスハラを未然に防ぐための予防策

  1. 経営トップが発信する「カスハラを許さない」という強いメッセージ
  2. 契約書・重要事項説明書に「ハラスメント条項」を明記する
  3. 組織で対応するための「カスハラ対応マニュアル」の策定
  4. 職員のスキルアップ!ロールプレイング形式の研修を実施

発生時も慌てないカスハラ対応実践フローチャート

  1. Step1:初期対応(現場担当者)
  2. Step2:報告・記録(担当者→管理者)
  3. Step3:組織的対応の検討(管理者)
  4. Step4:利用者・家族への通知と交渉
  5. Step5:外部機関との連携(弁護士・警察・行政)

訪問介護・訪問系事業所のカスハラ対策と安全確保

  1. 訪問介護特有のリスクと安全確保策

職員の心を守るメンタルヘルスケア体制の構築

  1. 定期的なストレスチェックと面談の実施
  2. 誰もが安心して相談できる窓口の設置
  3. 被害に遭った職員への具体的な配慮(担当変更、休暇取得の推奨など)

【経営者向け】カスハラ対策実施状況チェックリスト

まとめ:カスハラ対策は、職員と事業所の未来を守る最重要の経営戦略

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2026年から求められる介護事業所のカスハラ対策(義務化スケジュール)

カスハラ対策は、もはや「できれば取り組みたい」レベルではありません。2026年10月1日には労働施策総合推進法改正により全業種でカスハラ防止の雇用管理上措置が義務化され、介護報酬上も令和8年度(2026年度)以降、全事業所共通の必須対応が求められる方向です。経営者は、介護保険運営上の要求労働法上の要求の両方を整理したうえで、運営規程・重要事項・電子掲示を見直す必要があります。

時期 根拠 内容 義務の性質
令和3年度(2021年度)介護報酬改定 介護報酬・運営基準 ハラスメント防止の必要な措置(パワハラ・セクハラ等) 義務
同上 同上 利用者・家族等からのカスハラ防止の方針明確化等 推奨
令和6年度(2024年度)介護報酬改定 運営基準・書面掲示規制見直し 運営規程・重要事項等の電子掲示(ウェブ公表) 義務
令和7年労働施策総合推進法改正 労働施策総合推進法 顧客等からの言動による問題への雇用管理上の措置 義務2026年10月1日施行)
令和8年度(2026年度)以降(介護報酬) 報酬改定方針・運用 全介護事業所共通のカスハラ対策(運営規程・相談体制・研修・発生時対応・再発防止等) 義務(年度・サービス種別の詳細は告示・Q&Aで確認)

*個別事業所の適用は最新の厚生労働省通知・都道府県の指導で確認してください。労働法上の措置と介護報酬上の措置は別の法令根拠です。

運営規程・契約書・電子掲示の記載例を無料ダウンロード

義務化スケジュール(介護報酬・労働法の二軸)に沿って、運営規程・重要事項・契約書・電子掲示の記載例、経営者向けセルフチェック10項目、相談窓口・体制設定シートを1冊にまとめたカスハラ対策の教科書を無料配布しています。PDF(印刷用)とWord(編集用)をご用意しています。

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2026年度までに整備すべき5つの必須対応

上記スケジュールを踏まえ、介護事業所が優先的に取り組むべき事項は以下の5点です。

  1. 対応方針の明確化と周知:カスハラの考え方、事業所としての対応姿勢を明文化し、職員だけでなく利用者・家族にも説明する
  2. 相談体制の整備:職員が安心して相談できる窓口を設け、管理者や法人本部と連携できる体制を整える
  3. 職員研修の実施:カスハラの判断基準や、現場での初期対応方法を共有する
  4. 発生時の適切な事後対応:対応マニュアルを整備し、被害を受けた職員への配慮や必要に応じた対応を行う
  5. 再発防止策の徹底:事例を共有し、組織として対応力を高める

上記5項目のうち、運営規程・契約書・電子掲示の整備はカスハラ対策の教科書、職員研修の実施は研修マニュアルにそれぞれ対応するひな形を収録しています(いずれも無料)。

なぜ今、介護事業所の経営者がカスハラ対策に本気で取り組むべきなのか?

介護業界におけるカスタマーハラスメント(カスハラ)は、もはや「たまに起こる困った出来事」ではありません。厚生労働省の調査(2019年)によると、介護現場で働く職員が利用者本人からハラスメントを受けた経験がある割合はサービス種別により異なりますが、4割から7割にのぼります。また、利用者の家族等から受けた経験がある割合は1割から3割でした。この調査におけるハラスメントには、認知症等の病気や障害による言動も含まれていました。

*参考:株式会社 三菱総合研究所「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書」(2019年)

なお、2022年改訂のマニュアル*では、認知症等の病気や障害の症状として現れた言動は、ハラスメント対策ではなく医療的なケアで対応すべきと区別されています。

*参考:株式会社 三菱総合研究所「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」(2022年)

職員の離職は経営の危機に直結する

カスハラが引き起こす最も深刻な問題は、職員の離職です。利用者や家族からの暴言、理不尽な要求、威圧的な態度に日常的にさらされた職員は、次第に心身を病み、最終的には職場を去ることになります。

介護業界では慢性的な人材不足が続いており、一人の職員を失うことの影響は計り知れません。新たな職員の採用には時間とコストがかかり、その間は残った職員への負担が増大します。これが悪循環を生み、さらなる離職を招く結果となるのです。

  • 採用コストの増大:採用には時間とコストがかかり、求人広告費、面接・研修費用などが発生します
  • サービス品質の低下:人手不足による利用者への影響、介護サービスの継続性や質の確保への支障
  • 既存職員への負担増:残業時間の増加、ストレス増大による更なる離職リスク
  • 事業所の評判悪化:職員の定着率低下による人材確保への影響や、地域での評判への懸念

ハラスメントを受けた職員の2割から4割が仕事を辞めたいと思った経験があり、実際に1.8%から11.6%が退職しています(三菱総研、2019年)。また、厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」(2024年)では、顧客等からの著しい迷惑行為に関する相談が「あった」と回答した事業主の割合は27.9%にのぼり、カスハラは業種を超えた経営課題となっています。

*参考:厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(2024年)

放置は違法?問われる事業所の「安全配慮義務」と2026年カスハラ防止義務

カスハラを放置することは、法的にも大きなリスクを伴います。労働契約法第5条に定められた「安全配慮義務」により、事業者は職員の生命・身体・健康を危険から保護する義務を負っています。これは、利用者や家族からのハラスメントについても例外ではありません。

さらに、令和7年(2025年)に成立した労働施策総合推進法の改正により、2026年10月1日から、全ての事業主にカスハラ防止の「雇用管理上の措置義務」が課されます。介護事業所も対象であり、方針の明確化・周知、相談体制の整備、事実確認と適切な対処、プライバシーの保護、不利益取扱いの禁止などの措置が求められます。

安全配慮義務違反が認定される可能性のあるケース:

  • カスハラの事実を把握していたにも関わらず、適切な対策を講じなかった
  • 職員からの相談や報告を軽視し、個人の問題として処理した
  • カスハラを行う利用者への対応を職員一人に任せ続けた
  • 職員の精神的不調の兆候を見逃し、適切なケアを提供しなかった

安全配慮義務を怠った場合、損害賠償請求等の法的責任が問われる可能性があります。経営者として、法的リスクを回避するためにも、カスハラ対策は必須の取り組みなのです。

その言動、どこからがカスハラ?定義と具体的事例

カスハラ対策を効果的に進めるためには、まず「何がハラスメントに該当するのか」を明確に理解する必要があります。介護現場では利用者の認知症の症状や身体的な不調が影響することもあり、適切なケアとハラスメント行為の境界線を見極めることは容易ではありません。

しかし、曖昧な基準のままでは職員も適切な対応ができず、問題が深刻化してしまいます。ここでは、厚生労働省の事業で作成されたマニュアルの内容を基に、実践的な判断基準と具体的な事例を詳しく解説します。

「正当なクレーム」と「介護現場におけるハラスメント」の明確な境界線

厚生労働省の関連事業で作成されたマニュアルでは、介護現場におけるハラスメントを身体的暴力、精神的暴力、セクシュアルハラスメントと定義しています。また、令和3年度の介護報酬改定では、利用者や家族等からのセクシュアルハラスメント対策が義務付けられ、顧客等からの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)への対策も推奨されています。

このマニュアルの内容を介護現場に当てはめると、以下の3つの要素で判断することができます。

1. 要求の内容が不当である

介護保険制度や契約で定められた範囲を明らかに超える要求、職員の人格を否定するような内容などが該当します。金銭の支払いを巡る不当な言動や要求も含まれます。例えば、「契約にない家事全般をやれ」「気に入らないから職員を辞めさせろ」といった要求は明らかに不当です。

2. 要求の手段・態度が不適切である

要求内容が正当であっても、その伝え方が社会通念を超えて不適切な場合はハラスメントに該当します。大声で怒鳴る、暴力を振るう、長時間にわたって拘束する、人格を否定する言葉を使うなどの行為です。

3. 職員の就業環境が害されている

その言動により、職員が精神的・身体的な苦痛を感じ、正常な業務遂行が困難になっている状態です。一回限りの軽微な言動であっても、継続的に行われることで就業環境が害される場合もあります。

重要なのは、これらの要素を総合的に判断することです。なお、利用者の認知症等の症状として現れる言動(BPSD等)は、ハラスメントとは区別されます。こうした言動には、ハラスメント対策ではなく医療的なケアのアプローチで対応することが推奨されています。ただし、職員の安全や尊厳が脅かされる状況では、適切な安全確保措置も合わせて講じる必要があります。

【事例で学ぶ】介護現場で頻発する3大カスハラ類型

介護現場で発生するカスハラは、その性質によって大きく3つの類型に分けることができます。それぞれの特徴と具体的な事例を理解することで、早期発見と適切な対応が可能になります。

暴言・威圧等の「精神的攻撃」型

最も頻繁に発生するのが、言葉による精神的な攻撃です。利用者や家族が職員に対して人格を否定する言葉を浴びせたり、威圧的な態度で接したりするケースです。

典型的な事例:

  • 人格否定の暴言:職員の人格や尊厳を傷つけ、おとしめる発言(例:大声で怒鳴る、能力を否定する発言、特定の職員に嫌がらせをする言動など)
  • 威圧的な態度:大声で怒鳴る、机を叩く、「訴えてやる」「クビにしてやる」などの脅迫的発言
  • 長時間の叱責:些細なミスに対して威圧的な態度で文句を言い続ける
  • 人格や尊厳を傷つける発言:職員の出身地、学歴、家族構成などを理由とした不適切な発言

精神的攻撃は、職員の自尊心を傷つけ、長期的なトラウマを残すことがあります。ハラスメントを受けたことにより仕事を辞めたいと思ったことがある職員は2〜4割に上り、実際に退職に至ったケースも1.8〜11.6%確認されています(三菱総研、2019年)。

暴力・器物破損等の「身体的攻撃」型

身体的な暴力や器物破損は、職員の安全に直接関わる深刻なハラスメントです。

典型的な事例:

  • 直接的な暴力:叩く、蹴る、つねる、髪を引っ張る、首を絞めるなどの身体的攻撃
  • 物を投げつける:食器、リモコン、本などを職員に向かって投げる
  • 器物破損:職員の服を引きちぎるなど、身体的な力を使って物品に危害を及ぼす行為
  • 危険物の使用:ハサミ、包丁などの刃物を振り回す、熱湯をかけようとする

身体的攻撃は、職員の身体だけでなく、心にも深い傷を残すことがあります。ハラスメントを受けたことによりけがや病気(精神的なものも含む)になった職員は、サービス種別により5.2〜22.1%にのぼります。特に介護老人福祉施設では22.1%の職員がけがや病気を経験していることが報告されています(三菱総研、2019年)。

セクハラ・不合理な要求等の「サービス強要」型

契約で定められた範囲を超えるサービスの強要や、性的な嫌がらせも深刻なハラスメントです。特に訪問系サービスでは、密室での一対一の状況になりやすく、被害が表面化しにくいという問題があります。

典型的な事例:

  • 性的嫌がらせ:不適切な身体接触、卑猥な発言、裸体を見せつける、性的な関係を迫る
  • 契約外サービスの強要:大掃除、庭の手入れ、買い物代行、ペットの世話など
  • 不適切な金銭要求:介護サービスとは無関係に金品を要求する行為
  • 私的な用事の要求:介護保険サービスの範囲を超えた強要行為

これらの事例からも分かるように、カスハラは職員の尊厳と安全を脅かす深刻な問題です。経営者として、どのような言動がカスハラに該当するのかを明確に理解し、職員と共有することが重要です。

※認知症等の症状(BPSD等)について: 厚生労働省マニュアル(2022年)では、症状として現れる言動はハラスメント対策ではなく医療・介護的アプローチで対応すると整理されています。ただし職員の安全確保は別途配慮が必要です。以下の類型説明で繰り返し触れる場合も、この区別を前提として読み替えてください。

運営規程・重要事項・電子掲示に盛り込むカスハラ条項

令和6年度介護報酬改定により、運営規程・重要事項等は書面掲示に加えて電子掲示(ウェブ公表)が義務付けられました。カスハラ対策では、少なくとも以下を運営規程・重要事項・契約書・HPに整理して掲載します。

  • 基本方針:カスハラを許さない旨、職員の尊厳と安全を守る姿勢
  • 禁止事項:暴力・暴言・セクハラ・契約外強要等
  • 相談窓口:内部・外部窓口、秘密保持、不利益取扱いの禁止
  • 記録・再発防止:事案記録、分析、研修・配置等の改善
  • 電子掲示:利用者・家族が事前に確認できる文案(短・長の2パターンがあると運用しやすい)

記載例の全文・セルフチェック10項目・相談窓口シートは、無料のカスハラ対策の教科書(Word/PDF)にまとめています。次章以降では、予防策のうち契約・周知・研修の要点を解説します。

明日からできるカスハラを未然に防ぐための予防策

カスハラ対策で最も重要なのは「予防」です。問題が発生してから対応するよりも、事前に適切な予防策を講じることで、多くのトラブルを未然に防ぐことができます。ここでは、明日からできる具体的な予防策を5つの観点から詳しく解説します。

経営トップが発信する「カスハラを許さない」という強いメッセージ

カスハラ予防の第一歩は、経営トップが明確な方針を示すことです。「お客様は神様」という古い考え方から脱却し、「利用者も職員も共に尊重される関係」を築くことが重要です。

トップメッセージは、朝礼、職員会議、研修などの機会を通じて繰り返し伝える必要があります。一度伝えただけでは効果は限定的です。継続的に発信することで、職員の意識に浸透し、組織文化として定着していきます。

効果的なトップメッセージの例文:

「私たちの事業所では、利用者の皆様に質の高いサービスを提供することを使命としています。しかし、それは職員の尊厳を犠牲にして成り立つものではありません。職員への暴言、暴力、不当な要求は、たとえ利用者やご家族からであっても決して許しません。職員の皆さんが安心して働ける環境を守ることは、経営者としての私の責務です。困ったことがあれば、一人で抱え込まず、必ず相談してください。」

このようなメッセージを定期的に発信することで、職員は「会社が自分たちを守ってくれる」という安心感を持つことができます。また、利用者や家族に対しても、事業所の方針を明確に示すことで、不適切な行為の抑制効果が期待できます。

契約書・重要事項説明書に「ハラスメント条項」を明記する

契約時に、ハラスメント行為があった場合の対応を明確に示すことは、予防効果が非常に高い取り組みです。契約書にハラスメント禁止条項を明記することで、利用者や家族に事業所の姿勢を伝え、不適切な行為の抑制効果が期待できます。

契約書に記載すべき具体的な条項例:

第○条(禁止事項)
利用者及びその家族等は、以下の行為を行ってはならない。
1. 職員に対する暴力、暴言、威圧的な言動
2. 職員に対する性的な言動や不適切な身体接触
3. 契約で定められた範囲を超えるサービスの強要
4. 職員に対する金銭の要求や贈り物の強要
5. その他、職員の人格や尊厳を傷つける行為

第○条(契約解除)
前条に定める禁止事項に該当する行為があった場合、事業者は利用者に対して改善を求めるものとする。改善が見られない場合、または行為が悪質である場合は、事業者は本契約を解除することができる。

重要事項説明書にも同様の内容を記載し、契約時に口頭でも説明することが大切です。「このような行為があった場合は、サービス提供をお断りする場合があります」と明確に伝えることで、利用者や家族の意識を変えることができます。

契約書・運営規程の条項例をすぐに使えるひな形

上記の禁止事項・契約解除条項に加え、運営規程・重要事項・電子掲示用文案(短・長)をWordで編集できるカスハラ対策の教科書を無料配布しています。忙しい管理者の方も、コピーして自事業所の規程に合わせて調整できます。

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組織で対応するための「カスハラ対応マニュアル」の策定

カスハラが発生した際に、職員が適切に対応できるよう、具体的なマニュアルを作成することが重要です。マニュアルがあることで、職員は冷静に対応でき、組織として一貫した対応を取ることができます。

マニュアルに含めるべき必須項目:

1. カスハラの定義と判断基準

  • どのような言動がカスハラに該当するのか
  • 正当なクレームとの区別方法
  • グレーゾーンの判断基準

2. 初期対応のフローチャート

  • カスハラを受けた時の具体的な対応手順
  • 安全確保の方法(複数人での対応、避難方法など)
  • 記録・報告の方法とタイミング

3. 報告・相談体制

  • 誰に、いつ、どのように報告するか
  • 緊急時の連絡先(管理者、警察、医療機関など)
  • 外部機関との連携方法

4. 記録様式とその活用方法

  • 客観的かつ詳細な記録様式
  • 事実確認のための客観的な記録方法の検討
  • 証拠保全の重要性

マニュアルは作成して終わりではありません。定期的に見直しを行い、新たな事例や法改正に対応してアップデートしていくことが重要です。また、職員全員がマニュアルの内容を理解し、実際に活用できるよう、研修を通じて周知徹底を図る必要があります。

職員のスキルアップ!ロールプレイング形式の研修を実施

前項の「カスハラ対応マニュアル」は発生時の対応手順書です。ここで紹介する研修マニュアルは、職員向けロールプレイ研修の進行用資料であり、別資料です。マニュアルを作成しても、実際の場面で適切に対応できなければ意味がありません。ロールプレイング形式の研修を実施することで、職員は実践的なスキルを身につけることができます。

効果的な研修プログラムの構成:

1. 基礎知識の習得(座学)

  • カスハラの定義と法的背景
  • 事業所の方針と対応フロー
  • コミュニケーションの基本技術

2. 実践的なロールプレイング

  • 典型的なカスハラ場面の再現
  • 適切な対応方法の練習とフィードバック

3. 事例検討とディスカッション

  • 実際に発生した事例の分析
  • より良い対応方法の検討
  • 職員同士の経験共有

研修では、以下のような具体的な場面を想定したロールプレイングを行います:

場面1:暴言を受けた場合の対応

  • 利用者:「お前はバカか!そんなこともできないのか!」
  • 適切な対応:「申し訳ございません。どのような点でご不満をお感じでしょうか。詳しくお聞かせください。」
  • 不適切な対応:「そんな言い方はひどいです!」(感情的な反応)

場面2:不当な要求を受けた場合の対応

  • 家族:「ついでに庭の草むしりもやってくれ。同じ料金なんだから。」
  • 適切な対応:「申し訳ございませんが、庭の手入れは契約に含まれておりません。必要でしたら、別途ご相談させていただきます。」
  • 不適切な対応:「分かりました。今回だけですよ。」(安易な受け入れ)

研修は定期的な実施が重要です。新入職員には必須研修として位置づけ、既存職員には継続的なスキルアップの機会として提供します。また、管理者向けの研修も別途実施し、職員からの相談を適切に受けられるよう、管理スキルの向上も図る必要があります。

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発生時も慌てないカスハラ対応実践フローチャート

どれだけ予防策を講じても、カスハラが完全になくなることはありません。重要なのは、発生した際に適切かつ迅速に対応することです。ここでは、カスハラが発生した際の具体的な対応フローを5つのステップに分けて詳しく解説します。

Step1:初期対応(現場担当者)

カスハラの初期対応は、その後の展開を大きく左右する重要な段階です。担当者が適切に対応することで、問題の拡大を防ぎ、早期解決につなげることができます。

初期対応の基本原則:

1. 安全確保を最優先する

身体的な危険を感じた場合は、迷わずその場から離れることが重要です。「利用者を見捨てるわけにはいかない」という責任感から危険な状況に留まることは、かえって事態を悪化させる可能性があります。

  • 暴力の兆候があれば、すぐに距離を取る
  • 出入り口を確保し、逃げ道を塞がれないようにする
  • 必要に応じて他の職員や管理者に応援を求める
  • 緊急時は迷わず110番通報する

2. 冷静さを保ち、感情的にならない

相手が興奮している時こそ、職員は冷静さを保つことが重要です。感情的な反応は、さらなる対立を招く原因となります。深呼吸をして心を落ち着ける、声のトーンを低く・ゆっくりと話す、相手の目を見て真摯な態度で対応するといった心がけが有効です。

3. 傾聴の姿勢を示す

まずは相手の話を最後まで聞くことが大切です。途中で遮ったり、反論したりすることを避け、「おっしゃることはよく分かります」「ご不便をおかけして申し訳ございません」「詳しくお聞かせください」といった表現で、相手の気持ちを理解しようとする姿勢を示します。

4. 安易な約束や謝罪は避ける

その場しのぎの約束や、根拠のない謝罪は後々大きな問題となります。事実確認ができていない段階では、「確認いたします」「検討いたします」にとどめ、即答を求められても「お時間をいただきます」と伝えることが重要です。

Step2:報告・記録(担当者→管理者)

初期対応が終わったら、速やかに管理者への報告と詳細な記録の作成を行います。この段階での正確な情報収集が、その後の対応の質を決定します。

報告のタイミングと方法:

  • 緊急性が高い場合:速やかに電話連絡を行う
  • 通常の場合:速やかに口頭で報告し、その後、文書による記録を行います
  • 軽微な場合:遅くとも翌日までに文書で記録し報告します

記録すべき項目:

  • 発生日時
  • 発生場所
  • 関係者(誰が、誰に)
  • 発生した事実(具体的な言動や状況)の客観的記載
  • 発生の経緯や背景
  • とられた具体的な対応

記録作成時の注意点:

  • 主観的な感想ではなく、客観的な事実に基づき記録する
  • 相手の発言は可能な限り具体的に再現し記録する
  • 時系列に沿って整理する
  • 目撃者がいる場合は、その証言も参考として記録する

録音について: 録音に関しては、法的な問題を含む可能性があるため、慎重な判断が必要です。事業所として、事前にその方針を定めておくことが望ましいでしょう。

Step3:組織的対応の検討(管理者)

管理者は、担当者からの報告を受けて、組織としての対応方針を決定します。この段階では、冷静かつ客観的な判断が求められます。

対応方針決定のプロセス:

1. 事実関係の整理

  • 報告内容の詳細確認
  • 関係者からの聞き取り
  • 過去の経緯の確認
  • 必要に応じて類似事例との比較検討

2. 問題の性質と重要度の判定

  • ハラスメントに該当するかの判断
  • 緊急性の評価
  • 影響範囲の把握
  • 関連法令や専門家の意見も参考に、法的リスクの評価

3. 対応方針の決定

  • 内部対応で済むか、外部機関の協力が必要か
  • 利用者・家族との話し合いの必要性
  • サービス提供の継続可否
  • 職員の安全確保策

4. 関係者への情報共有

  • 職員への情報共有と注意喚起
  • 他部署・他事業所への連絡
  • 必要に応じた家族への連絡

Step4:利用者・家族への通知と交渉

組織としての方針が決まったら、利用者や家族に対して正式な回答を行います。この段階では、文書による通知を基本とし、必要に応じて面談を実施します。

通知文書の作成ポイント:

  • 事実関係を客観的に記載する
  • 事業所の見解を明確に示す
  • 今後の対応方針を具体的に記載する
  • 改善を求める場合は、具体的な内容を明確に示す

通知文書の例文:

○○様

平素より当事業所のサービスをご利用いただき、ありがとうございます。

この度、○月○日に発生いたしました件につきまして、事実関係を確認いたしましたので、ご連絡申し上げます。

当日、職員に対して「バカ」「役立たず」等の発言があったことを確認いたしました。このような発言は、職員の人格を否定するものであり、当事業所としては看過できないものと判断いたします。

つきましては、今後このような発言を控えていただきますよう、お願い申し上げます。改善が見られない場合は、サービス提供の継続について検討せざるを得ない場合がございますので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

Step5:外部機関との連携(弁護士・警察・行政)

事業所内での対応に限界がある場合や、法的な問題が生じる可能性がある場合は、外部機関との連携が必要です。

連携すべき外部機関:

1. 弁護士

  • 法的な判断が必要な場合
  • 契約解除を検討する場合
  • 損害賠償請求を受けた場合
  • 刑事告発を検討する場合

2. 警察

  • 暴力行為があった場合
  • 脅迫や恐喝があった場合
  • 器物破損があった場合
  • 職員の身に危険が及ぶ場合

3. 行政機関

  • 地域包括支援センター
  • 市町村の介護保険担当課
  • 都道府県の指導監査担当課
  • 労働基準監督署

外部機関との連携は、問題の解決だけでなく、職員の安全確保と事業所の信頼性向上にもつながります。一人で抱え込まず、適切な時期に適切な機関に相談することが重要です。

訪問介護・訪問系事業所のカスハラ対策と安全確保

訪問系サービスは、施設系と異なり、密室での一対一の対応になりやすいことから、カスハラが特に深刻化しやすい環境です。セクシュアルハラスメントや身体的暴力が発生しても第三者の目がなく、職員が一人で抱え込みやすい状況があります。

訪問介護特有のリスクと安全確保策

主なリスク:

  • 密室性:第三者の目がなく、被害が表面化しにくい
  • 孤立性:管理者や同僚にすぐ相談できない状況
  • 訪問先での身体的リスク:刃物・熱湯等の危険物が身近にある
  • 継続性:断りにくい関係性が長期化しやすい

具体的な安全確保策:

  • 複数人訪問の導入:カスハラが疑われる利用者への訪問は、必ず2人以上で対応する(都道府県によっては複数人訪問への支援補助あり)
  • 訪問前の情報共有:過去のインシデント・利用者情報を担当者間で共有し、リスクを事前に把握する
  • 定期的な振り返り:訪問後の報告義務付けと、ヒヤリハット事例の組織的な蓄積
  • 防犯機器の活用:ウェアラブルカメラや緊急連絡ボタンなどの活用(各都道府県の補助事業等も参照)
  • 担当変更・訪問中止の基準設定:職員が担当変更や訪問中止を申請しやすい環境を整備する

東京都では介護職員を対象にしたカスハラのワンストップ相談窓口を開設しており、法的アドバイスや複数人訪問への支援補助なども実施しています。各都道府県の取り組みを確認し、積極的に活用しましょう。

職員の心を守るメンタルヘルスケア体制の構築

カスハラ対策において見落とされがちなのが、被害を受けた職員のメンタルヘルスケアです。適切なケアを提供することで、職員の早期回復を支援し、離職を防ぐことができます。

定期的なストレスチェックと面談の実施

労働安全衛生法に基づくストレスチェックに加えて、カスハラに特化したチェック項目を設けることで、職員の心理状態を早期に把握することができます。

カスハラ関連のチェック項目例:

  • 利用者や家族からの言動で不快な思いをしたことがあるか
  • 仕事に行くのが憂鬱に感じることがあるか
  • 特定の利用者への対応に不安を感じるか
  • 同僚や上司に相談しにくいことがあるか

誰もが安心して相談できる窓口の設置

職員が気軽に相談できる環境を整備することが重要です。相談窓口は複数設置し、職員が相談しやすい方法を選択できるようにします。

  • 内部相談窓口:管理者、主任、先輩職員など
  • 外部相談窓口:産業医、カウンセラー、弁護士など
  • 匿名相談:意見箱、メール、電話など

被害に遭った職員への具体的な配慮(担当変更、休暇取得の推奨など)

カスハラの被害を受けた職員に対しては、以下のような配慮を行います:

  • 担当変更:問題のある利用者の担当から外す
  • 複数人対応:一人での対応を避け、必ず複数人で対応
  • 休暇取得の推奨:心身の回復のための特別休暇
  • カウンセリングの提供:専門家によるメンタルケア
  • 配置転換:必要に応じて他部署への異動

重要なのは、被害を受けた職員が「自分が悪かった」と感じないよう、組織として全面的にサポートする姿勢を示すことです。

【経営者向け】カスハラ対策実施状況チェックリスト

2026年義務化に向けた自事業所の対策状況を確認しましょう。以下の項目を定期的にチェックし、未対応の項目から優先的に取り組んでください。

方針・規程の整備

  • □ カスハラ対応方針を明文化し、職員・利用者・家族に周知している
  • □ 運営規程にカスハラ禁止条項・対応方針を盛り込んでいる
  • □ 重要事項説明書にカスハラに関する禁止事項・サービス制限の説明を記載している
  • □ 事業所のウェブサイト(電子掲示)にカスハラ対応方針・相談窓口を掲載している

体制・マニュアルの整備

  • □ カスハラ対応マニュアルを作成し、全職員が閲覧できる状態にある
  • □ 相談窓口(内部・外部)を整備し、職員に周知している
  • □ カスハラ発生時の報告ルートと記録様式が定まっている
  • □ 訪問系サービスは複数人対応のルールを設けている

研修・啓発

  • □ カスハラに関する研修を過去1年以内に実施している
  • □ 管理者がカスハラ相談を適切に受ける研修を受けている
義務化対策の無料資料(教科書・研修マニュアル)

上記チェックリストに対応するセルフチェック10項目と、運営規程・契約書・電子掲示・相談窓口のWord編集用ひな形教科書に。60分/30分の進行表・シナリオ5本・ワークシート・実施記録は研修マニュアルにまとめています。書類整備→職員研修の順で着手する場合は、まず教科書からご利用ください。

カスハラ対策の教科書を無料ダウンロードする

カスハラ対策の研修マニュアルを無料ダウンロードする

まとめ:カスハラ対策は、職員と事業所の未来を守る最重要の経営戦略

介護現場におけるカスタマーハラスメント対策は、もはや「あったら良い取り組み」ではなく、事業継続のための「必須の経営戦略」です。2026年10月には全業種でカスハラ防止措置が義務化され、介護事業所は労働法上の雇用管理上措置介護報酬・運営基準上の整備(運営規程・電子掲示等)の両方に向けた対応が求められています。

今すぐ実践すべき6つのアクション:

  1. 経営方針の明確化:「カスハラを許さない」という強いメッセージを職員と利用者に発信する
  2. 契約書・運営規程の見直し:ハラスメント禁止条項を追加し、契約解除の根拠を明確にする
  3. 対応マニュアルの作成:具体的で実践的なマニュアルを作成し、職員に周知する
  4. 研修の実施:ロールプレイング形式の実践的な研修を定期的に実施する
  5. 相談体制の整備:職員が安心して相談できる環境を構築する
  6. 運営規程・重要事項・電子掲示の整備:2026年義務化スケジュールを踏まえ、カスハラ対応方針・相談窓口の公表を進める

カスハラ対策は一朝一夕に完成するものではありません。継続的な取り組みと改善が必要です。しかし、適切な対策を講じることで、職員が安心して働ける環境を実現し、結果として利用者により良いサービスを提供することができます。

職員の笑顔が利用者の笑顔につながり、それが事業所の発展につながる。そんな好循環を生み出すために、カスハラ対策に本気で取り組んでいきましょう。

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