厚労省に聞く!ケアプランデータ連携システムの導入効果

介護施設への取材

厚労省に聞く!ケアプランデータ連携システムの導入効果

令和5年4月に利用が開始されたケアプランデータ連携システム、開始から1年以上が経った今でも「実はよくわかっていない」「成功事例があれば試してみたい」なんてお考えの方も多いのではないでしょうか?

そこで今回は、厚生労働省の秋山さんにケアプランデータ連携の基本情報から導入効果などについて、お話を伺ってきました。

インタビュアー早坂
インタビュアー早坂

システムの導入や普及の実態を知ることで、まだ導入できていない事業所の方にも導入ハードルが低く感じるようになるかもしれません。

ケアプランデータ連携システムの機能と利便性

まず、ケアプランデータ連携システムとは何か教えてください

従来のケアプラン・実績共有は、ケアマネ事業所にしてもサービス事業所にしても、介護ソフトで打ち込んだものを紙に印刷してファックスで送ったり、紙の情報を改めてパソコンに打ち込んだりという非常に手間が生じるものでした。

その煩雑な業務をパソコン業務だけで完結できるようにしたのがケアプランデータ連携システムです。

記入ファイルは厚生労働省が提示した「標準仕様」を基に作成・規格化されていますから、施設ごとのケアプラン記入ルールに縛られることなくプラン・実績作成をすることができます。

事業所の有無検索も容易ですし、自動的に振り分けが行われるため送信するだけで業務が完了します。

なによりケアマネ事業所・サービス事業所共に転記不要なのが最大の特徴で、毎月の作業時間を大幅に短縮できると期待されています。

ケアプランデータ連携システムはどんな経緯で生まれたのでしょうか

毎月ケアプランデータを共有する際、今までの業務フローは図のようになっており、毎月事業所ごとに1からケアプランを作り直す必要がありました。

このフローでは訪問介護の種類によっては1日に何度もこの工程を繰り返す必要がある他、作成者当人が作り直しを行わないためにヒューマンエラーが発生しやすいデメリットもありました。

これを受けて厚生労働省が令和元年に調査研究を行い、ケアプランのうちサービス提供表をデータ連携するために標準仕様(規格)を作成・公開しました。

そしてこの標準仕様を使ったネット上のデータ連携システムが構築され、ケアプランデータ連携システムとなりました。

システムを導入することで業務フローの改善や期待される効果にはどんなものがありますか?

ケアプラン(実績)の作成主体はサービス事業者ですから、打ち直しが生じないデータを伝えるのが一番効率的です。

事務作業が無くなる分、業務フローは非常にシンプルになります。

また、業務フローの改善だけでなく、業務時間が減ることでその分の人件費を削減することができます。

厚生労働省の試算では人件費は3分の1ほどに削減できるとしており(作業時間が52.4時間から18.1時間に減る想定での試算)

他に直接的な支出として、通信費・郵送代・交通費の削減(直接的な支出)は毎月4,000円強の削減ができるため、ケアプランデータ連携システムのライセンス費(月額1,750円:税込み)を加味しても十分削減効果があると言えます。

インタビュアー早坂
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確かに、これまで生じていた支出が削減されるだけでも十分にライセンス料の元は取れるので、導入コストで赤字になることはなさそうですね。

さらに「費用対効果を具体的な数字として知りたい」というお声にも応えるべく、国民健康保険中央会(以後、中央会表記)では、「かんたんシミュレーションツール(xlsxファイル)」を配布しています。

かんたんシミュレーションツールはExcelファイルに必要な項目を入力していただくと、ケアプランデータ連携システム利用料を含んだ削減総額、削減時間、詳細な内訳(金額と時間、導入前・後・差分)を確認することができます。

中には「ケアプランデータ連携システムを使っている事業所とたくさん繋がらないと黒字にならないのではないか?」という心配もあるかもしれませんが、そんな不安もこちらのツールを使えば解消することができます。

かんたんシミュレーションツールを使って、平均的な事業所を例にシミュレートしてみましょう。

利用者様が90人、ケアマネージャーが3人の事業所をシミュレーションすると、たった1か所の事業所とやり取りするだけで黒字になる結果が出ます。

少ない事業所とやりとりしても赤字になることはありませんし、ケアプランデータ連携システムの普及が進むほど黒字額が増えるとご理解いただけるはずです。

インタビュアー早坂
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実際に具体的な金額として算出できると、事前に導入効果も把握できるので安心して導入できそうですね。

ケアプランデータ連携システムの導入事例とユーザーの声

 実際に導入された事業所からはどんな声をいただいていますか?

活用されている事業所さんからは「ファックス業務が無くなった」「(業務が)非常に楽になった」というお声をいただいています。

ケアマネ1人当たりの取り扱い件数を増やして運用できるようになった事業所もあります。

地域ごとの導入と普及の状況はいかがですか?

都道府県ごとにばらつきはあるものの、おおよそ5%の事業所(約10,000件)がケアプランデータ連携システムを導入しています。

その中でも導入が進んでいるところとして、岐阜県の下呂市が挙げられます。

厚生労働省では、市町村内で自然に導入率が増加する基準値(目標)を「3割」と定めていて(※理由は後述)、下呂市はその基準値を超えています。

その背景として、下呂市はケアプランデータ連携システム導入に強い関心を持っていて、独自の補助制度、ケアプランデータ連携システムのライセンス料補助をいち早く始めていました。

初期は最初の1年間補助のみでしたが、2024年の8月には最大で3年間全額補助される手厚い支援に変更されています。

他にも奈良県の生駒市では、セミナーなどを積極的に行うことで普及率を伸ばしているという事例もあります。

ケアプランデータ連携システムの普及に向けた課題と展望

 普及の障壁となる要因があるとすれば何でしょうか?

「時間短縮ができて黒字化・補助金が望めるけどやっぱり心配」、そういったお声もあるでしょう。

実際、ケアプランデータ連携システムの普及を阻む要因としては

  • 導入コストがかかる
  • 黒字化するかが不透明である
  • 操作に不安があるなどのITリテラシーの低さ
  • 導入にあたって業務改善が必要になる
  • サポートがないと不安

などが挙げられます。

今後の普及に向けた施策と支援を教えてください

厚生労働省では自治体に対して補助金を出していまして、各都道府県につき5モデル、「ケアプランデータ連携に4つ活用促進モデル地域づくり事業」から1モデル850万円上限で補助を受けることができます。

補助金受給の条件は自治体が主導でグループを作り、施設側はそのグループに参加することになります。

グループの中で介護ソフト、パソコンなどの機材購入、または研修、業務コンサルタントの活用、効果測定事業の発足運営、事例集の作成などを行うことができます。

これらの中でもっともシンプルな使い方が、補助金を下呂市のようにケアプランデータ連携システムのライセンス料に当てることで、この方法で「導入コストがかかる」問題をクリアすることができます。

黒字化に関しては前述した「かんたんシミュレーションツール(xlsxファイル)」で、操作性などのインターフェースへの不安はケアマネ協会、地域協議会、市町村・都道府県が主催で行っている体験会で、それぞれ解消することができます。

ケアプランデータはドラッグ&ドロップとクリックさえできれば送信できるシンプルなものです。もし体験会を受けてみたい方は、オンライン体験会もありますのでぜひ中央会にお問い合わせください。

【体験会のお問い合わせは以下から】

https://www.careplan-renkei-support.jp/

目標としている導入率3割はどういった基準から生まれたものですか?

厚生労働省が目指す「各都道府県の導入率を3割に」は、自然普及が望める最低値を出したもので、エベレット・ロジャースが提唱した「イノベーター理論」を軸に決定されたものです。

イノベーター理論は消費者を5つのタイプに分類したもので、新製品に対するアクションが早いものから以下のように分けられます。

  1. イノベーター(革新的採用者:全体比率2.5%)
  2. アーリーアダプター(初期少数採用者:全体比率13.5%)
  3. アーリーマジョリティ(前期追随者:全体比率34%)
  4. レイトマジョリティ(後期多数採用者:全体比率34%)
  5. ラガード(遅滞者・伝統主義者:全体比率16%)

厚生労働省は目標としているのは第3タイプのアーリーマジョリティ(前期追随者:全体比率34%)の4割がケアプランデータ連携システムを導入した状態です。

(イノベーター100%、アーリーアダプター100%、アーリーマジョリティを100としたときの41.2%=全体の30%)

アーリーマジョリティは新製品に対して慎重な姿勢を持っていますが、初期少数採用者・アーリーアダプターの評価や口コミを参考に、比較的早い段階で採用を決定するとされているタイプです。

アーリーアダプターまで導入が浸透している状態で、1モデルにつき補助金支給=グループ作成必須にすることで施設間・法人間ネットワークが広がり、拡散対象であるアーリーマジョリティに口コミや評価が届きやすくなります。

アーリーマジョリティ(風潮構成役)まで浸透さえすれば、レイトマジョリティを少しずつ引き込むことができるのです。

実際にどこの施設がケアプランデータ連携システムを導入しているかは、「ケアプランデータ連携システム利用状況」サイトから検索することができますので、こちらから近郊の施設の利用状況を確かめて見ても良いかもしれません。

ケアマネがシステムを使いこなすためにはどうしたら良いでしょう?

「気になるけど、何からはじめたらいいかわからない」という方には、ケアプランデータ連携システムを使う準備として、まず業務改善を行っていただくことをおすすめします。

今までの業務フローの見直しをしていただいて、その中でルールを決めていただくのが重要です。

では業務フローをどう見直せばいいかと申しますと、厚生労働省が配布している「ケアプランデータ連携を円滑に行うための業務改善のポイント集」をご活用いただいたり、サポートサイトをご利用いただいたりするとスムーズです。

例えば、トライドマネジメントさん(神奈川県)の事例では、ヘルプデスクのサポートを受けることで1か月程度で指導員の教育が完了、その後すぐに事務員を指導できる段階に入れました。

業務改善・導入にそれほど時間がかからないのです。

「始めてみようか、うちで使っている介護ソフトは対応しているだろうか」と思われた方に向けては、大手メーカー9割を網羅している確認表をご用意していますので、どの介護ソフトが対応しているのかぜひこちらでご確認ください。

「ケアプランデータ連携システム」ベンダー試験の結果について

https://www.kokuho.or.jp/system/care/careplan/lib/240724_5113_cp-vender.pdf

インタビューを通じて見えたケアプランデータ連携システムの未来

秋山さんのビジョンと期待を聞かせてください

ケアプランデータ連携システムは、担当件数が50件に増えることなどが切り取られて「仕事を増やすイメージ」が先行していますが、それは違います。

実際はケアマネ業と事務を分業して、担当ケアマネ業務に集中してもらいやすくするためのシステムです。

そして、ケアプランデータ連携システムが目指すのは地域全体がよくなっていくこと、それが広まっていくことなのです。

一番障壁になるのは相談相手、仲間がいないことだとお話を聞くたびに耳にします。

仲間を作ってください。1事業所でも良いのでやり取りをする仲間を、一緒にデータ連携システムを始めてくれる仲間を作っていただきたいです。

そうすることで、本当に業務が楽になると思います。

インタビュアー早坂
インタビュアー早坂

ケアプランデータ連携の導入をきっかけに、一緒に業務改善していく仲間が身近なところから広がっていくと、業界全体がどんどん良くなっていきそうですね!

この取材のインタビュアー

  • 【著者】早坂祐哉

    【著者】早坂祐哉

    大学卒業後、大手介護ソフトベンダーに7年間勤務。年間約50法人に介護ソフトを新規販売し、最年少で営業成績1位を獲得。課題抽出から業務改善に関するコンサルティング経験も多数。後に、「介護のテクノロジーを最適化する」という理念のもと(株)GiverLinkを設立し、同メディア「介護のコミミ」を通じ、月間3万人の介護職員に情報発信をしている。

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