介護職員の処遇改善、制度活用に明暗 – 厚労省が調査の速報を公開

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厚生労働省は24日、「令和6年度介護従事者処遇状況等調査」の速報結果(案)を公表した。これは、全国の介護施設・事業所を対象に、介護職員等の給与水準や処遇改善加算の取得状況、処遇改善の実施手法などを調査し、以後の介護報酬改定の基礎資料とすることを目的としたものである。

調査は令和6年10月時点で実施され、全国13,801の施設・事業所から8,180件(有効回答率約59.3%)の有効な回答が得られた。対象となった事業種別は、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、訪問介護事業所、通所介護事業所など多岐にわたり、従事者の給与や加算制度の運用実態が明らかにされた。

処遇改善加算を取得している事業所は賃上げが実現

この調査で、令和6年度についてはは介護職員等処遇改善加算を取得している施設・事業所における介護職員(月給・常勤の者)の基本給等が、前年度比11,130円増(+4.6%)であることがわかった。また、平均給与額についても前年度比13,960円増(+4.3%)となっている。

参考:『令和6年度介護従事者処遇状況等調査結果のポイント(案)』(厚生労働省)

事業種別ごとに制度活用姿勢に明暗

しかしながら、この調査により介護従事者の処遇改善に対する事業種別ごとの取り組み姿勢の違いがあることも明らかになった。給与の引き上げや処遇改善加算の取得状況、手当の新設・充実といった項目において、積極的な事業種別とそうでない事業種別の間で、明確な差がみられた。

積極的だったのは施設系の事業所

その中で、介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院などの施設系の事業所で、調査時点で「給与等を引き上げた」としている事業所がいずれも90%以上となっており、平均の78.0%を大きく上回っている(※表1)。また、これらの事業種別は介護職員等処遇改善加算の取得状況においても、調査対象の事業所の90%以上が取得(届出)している状況で、特に加算(Ⅰ)においては、介護老人福祉施設の取得率80.1%と介護老人保健施設の取得率69.7%は、全体の取得率45.7%を大きく上回る状況だ(※表2)。

表1:給与等の状況
施設・事業所数(集計対象数) 施設・事業所数 給与等を引き上げた 給与水準を維持しているが、今後1年以内に引き上げる予定 給与水準を維持しており、今後1年以内に引き上げる予定はない 給与等を引き下げた その他
総数 8,180 78.0% 6.3% 8.8% 0.9% 1.6%
介護老人福祉施設 1,281 94.2% 3.2% 1.4% 0.4% 0.5%
介護老人保健施設 584 91.8% 4.3% 2.5% 0.1% 0.9%
介護医療院 375 91.0% 4.3% 3.2% 0.0% 1.1%
訪問介護事業所 877 81.4% 8.8% 6.4% 1.1% 0.9%
通所介護事業所 1,059 86.0% 6.6% 5.1% 0.2% 1.3%
通所リハビリテーション事業所 843 86.9% 4.2% 4.5% 0.3% 2.5%
特定施設入居者生活介護事業所 628 92.7% 2.9% 2.6% 0.2% 0.8%
小規模多機能型居宅介護事業所 692 88.1% 6.9% 3.1% 0.2% 0.8%
認知症対応型共同生活介護事業所 706 90.9% 5.9% 2.5% 0.0% 0.0%
居宅介護支援事業所 1,135 49.2% 6.0% 23.1% 2.3% 3.7%
表2:介護職員等処遇改善加算の取得(届出)状況
事業種別 加算の届出をしている 加算の届出を
していない
合計 加算 I 加算 II 加算 III 加算 IV 加算 V
全体 95.5% 45.7% 32.2% 11.8% 2.6% 3.2% 4.5%
介護老人福祉施設 99.6% 80.1% 13.4% 3.3% 0.7% 2.1% 0.4%
介護老人保健施設 98.8% 69.7% 16.4% 6.1% 3.1% 3.6% 1.2%
介護医療院 91.5% 44.6% 14.8% 14.3% 10.5% 7.3% 8.5%
訪問介護 96.3% 44.5% 32.3% 12.2% 2.5% 4.7% 3.7%
通所介護 94.3% 36.7% 35.3% 15.9% 3.5% 3.0% 5.7%
通所リハビリテーション 78.7% 47.7% 10.3% 13.1% 3.1% 4.5% 21.3%
特定施設入居者生活介護 99.5% 48.3% 42.5% 5.5% 2.2% 1.0% 0.5%
小規模多機能型居宅介護 99.0% 48.3% 38.6% 10.1% 1.0% 0.9% 1.0%
認知症対応型共同生活介護 99.7% 42.0% 45.6% 8.8% 1.2% 2.2% 0.3%

慎重姿勢だった訪問介護

一方で、処遇改善のための制度活用が比較的慎重だったのは訪問介護事業所で、給与等の引き上げの対象者については、「職員全員について、給与等を引き上げ(予定)」と回答した事業所が49.4%と、平均を下回る形となった(※表3)。また、介護職員等処遇改善加算の取得状況においても、訪問介護の当該加算全体の取得率は96.3%であったものの、令和7年3月いっぱいで廃止される加算(Ⅴ)の取得率が、全体平均の3.2%を上回る4.7%であったり、介護職員処遇改善支援補助金の届出状況においても届出をしたと回答した事業所は75.1%に留まり、全体平均の80.9%を下回った(※表4)。

表3:給与等の引き上げの対象者
施設・事業所数(集計対象数) 給与等を引き上げた(予定を含む) 職員全員に対して給与等を引き上げ(予定) 介護従事者全員に対して給与等を引き上げ(予定) 介護職員全員に対して給与等を引き上げ(予定) 一部従事者に対して給与等を引き上げ(予定) 対象者は未定
総数7,286 58.2% 14.1% 10.7% 15.6% 9.4%
介護老人福祉施設1,249 75.3% 10.2% 5.9% 9.5% 5.1%
介護老人保健施設561 66.4% 10.9% 13.5% 15.9% 4.9%
介護医療院357 65.7% 13.9% 15.1% 11.7% 4.8%
訪問介護事業所793 49.4% 15.7% 16.4% 19.6% 9.1%
通所介護事業所982 54.4% 16.2% 10.3% 15.5% 10.1%
通所リハビリテーション事業所769 63.7% 13.5% 9.8% 12.0% 7.3%
特定施設入居者生活介護事業所603 72.4% 7.8% 10.4% 16.5% 3.4%
小規模多機能型居宅介護事業所656 63.7% 13.2% 6.0% 15.8% 8.3%
認知症対応型共同生活介護事業所684 61.6% 19.5% 13.5% 13.8% 11.4%
居宅介護支援事業所632 59.0% 8.7% 4.2% 14.6% 13.0%
表4:介護職員処遇改善支援補助金の届出状況
施設・事業所数
(集計対象数)
届出をした 届出をしていない
総数7,045 80.9% 15.0%
介護老人福祉施設1,281 93.7% 5.3%
介護老人保健施設584 88.0% 10.4%
介護医療院375 69.7% 18.7%
訪問介護事業所877 75.1% 20.1%
通所介護事業所1,059 79.2% 16.5%
通所リハビリテーション事業所843 65.0% 19.6%
特定施設入居者生活介護事業所628 89.3% 9.7%
小規模多機能型居宅介護事業所692 89.6% 8.1%
認知症対応型共同生活介護事業所706 90.8% 8.5%

参考:「令和6年度介護従事者処遇状況等調査結果(案)」(厚生労働省)